研究指導教員が語る、
それぞれの研究内容から、研究指導の特徴、
そしてプライベートまで――。
研究指導教員が語る、
それぞれの研究内容から、
研究指導の特徴、
そしてプライベートまで――。
早稲田大学大学院 教育学研究科の研究指導とは? どんな教員がいて、どんなことを教えてくれるの? そんな疑問に答えるために、英語教育専攻の修士・博士論文の指導教員が座談会((第2回目/全2回)を行いました。
それぞれの研究内容や興味のある分野、院生の研究指導の内容や方針、院生の研究テーマ、さらに自分自身の院生時代やプライベートなど、普段はなかなか聞けない興味深い話も満載! 大学院への進学に興味・関心がある皆さんの参考にしてください。
参加者(順不同)
――自分自身の研究内容や興味がある分野は?
折井 今日はいろいろな研究分野の方々にお集まりいただきました。皆さんの研究内容や興味がある分野を教えてください。
松永 私の専門はイギリス文学で、特に20世紀初頭のモダニズムと、フェミニズムを研究しています。修士論文ではE・M・フォースターというイギリスの作家を取り上げて、ジェンダーや家族、ポストコロニアル批評といった観点から研究していました。
修論を書き終えた後、ジェンダーについてもっと深めたいと思って、博士後期課程では、フェミニズムから英文学を研究する指導教員のもとで自分の問いを少しずつ形にしていって、現在はヴァージニア・ウルフとポストフェミニズムについて研究しています。
木村 私は学部時代のタイの大学への交換留学をきっかけに、多言語話者同士の英語コミュニケーションというものについて考えるようになりました。そして、大学院では共通語としての英語の相互行為を、会話分析などの手法を用いて研究しました。
ただ、今日の英語には共通語としての側面だけでなく、旧植民地地域の公用語、エリート性や西洋文化の象徴、学術の媒介言語、文化資本などのさまざまな顔があり、そういった交錯した言説が「言語使用者を社会のなかで位置づける」という側面もあるので、最近では批判的談話分析の観点から“今日の英語の多面性が持つ示唆”について広く研究しています。

佐久間 私はアメリカ文学、特にアフリカ系アメリカ人文学や黒人女性の文学作品、ブラック・フェミニズムと呼ばれる思想も研究しています。
また、ジャズと、ジャズに影響を受けたジャズ文学、ブラックライブズマター運動や#MeToo運動などの社会運動と関連するポピュラーミュージックにも興味を持って研究しています。
バックハウス 私自身の博士論文のプロジェクトは“言語景観”という分野で、公共の場にある“書き言葉”、主に看板やサインの分析をしていました。そして、本校に来てからは“話し言葉”に移って、木村先生と同様の会話分析のアプローチで、介護施設の職員と居住者のやり取りについて研究してきました。 また、最近は小説などの文学作品を対象に、いろいろな言語学的な概念を当てはめて研究しています。 文学の専門家ではないのですが、言語学的・会話分析的な概念なども割と綺麗に当てはまるので、私にとってフレッシュなこの分野の研究がとても好きです。
――院生の研究指導の内容・方針、院生の研究テーマなどについて
折井 続いて、院生の研究指導の内容や方針、工夫などを教えてください。
木村 基本的には、指導学生の興味・関心や将来の展望に応じて柔軟に対応したいと思っていますが、応用言語学は伝統的な学術分野とは異なり「本質的に学際的」であり、また問題駆動型のコミュニティだと考えています。
ですから、専門性の追求だけではなく、広く浅い知識も身につけて、言語にまつわる問題に対して新しい論点を提示できる研究者になってほしいと思っています。
そして、実践的な学びも重要なので、教員と院生の共同執筆なども積極的に検討しています。私も院生のときに指導教官だけではなくほかの研究科の先生とも一緒に研究させていただいた経験があって、そこで一番多く学んだなと思うので、そういった機会を提供したいと考えています。
折井 佐久間先生はいかがですか? 文学分野だとだいぶ指導の仕方が変わりそうですが……。
佐久間 私の授業では、文学作品を学生さんと一緒に読んでいます。英語で丁寧にじっくり読んで、社会的・歴史的な背景に位置づけながら解釈するという精読や翻訳が中心です。
さらに、自分の考えや解釈を他者と共有するための発表やディスカッションを大切にしています。また、論文を学会誌に投稿するための個別指導も行っています。


バックハウス 私は、特に学生さんが興味を持ちやすいものとして、日常的に目にする看板やテレビコマーシャル、広告などのテキストというジャンルのあり方について深く理解するための研究指導を行っています。そのような分野の研究や、文学作品を言語学的な観点から分析することに興味がある方は大歓迎です。
松永 私は大学院生の授業や博論修論の副査は務めたことがあるのですが、研究指導をこれから本格的に始めるので、先生方のご指導を「なるほど」と思って聞いていました。
佐久間先生がおっしゃるように、精読も論文投稿もどちらも文学研究ではとても大事なことだと思います。同時に、木村先生のご研究と同じく、私自身の専門分野のモダニズムやフェミニズムもまた学際的なものなので、接点をつなげていくことを重視しています。
誰かと対話したり、できる限り多くの本を読んだりしてさまざまな接点を見つけて、修論や博論を完成させてほしいと考えています。
折井 次に、実際の院生さんの研究についてご紹介いただけるものがあれば教えてください。
佐久間 アメリカ文学研究の院生さんがほとんどですが、最近はジャズ・スタディーズに興味を持つ院生さんもいて、ジャズの音源を聴いて分析する授業も行っています。
アメリカ文学研究ですと、19世紀の作家ハーマン・メルヴィルに興味を持っている学生さんや、ポストモダン作家のドナルド・バーセルミに興味を持っている方もいらっしゃいました。
黒人文学に興味を持つ院生さんとは、ラルフ・エリスン、コルソン・ホワイトヘッド、トニ・モリスンなど一緒に読みました。
今年はウィリアム・フォークナーに興味を持っている方がいて、すごくむずかしくて大変なんですが、頑張って読むことで私自身も勉強になっています。
折井 たとえば、私の英語教育であれば4技能5領域など、ある程度決まった分野がありますが、文学の場合は1つの分野のなかでもさまざまな作家や作品によって研究内容も指導も違ってくるのではないですか? 松永先生、いかがでしょうか。
松永 はい。おっしゃるとおり、文学研究では扱う作家や作品によって研究の内容や方法が大きく異なります。誰もが知る著名な作家を研究するのか、それとも現在ではあまり読まれていない作家を取り上げるのかによっても、研究の方向性は変わってきます。そういった意味で、文学には“分野”がないように見えるかもしれません。
ただ、共通して重要なのは、テキストを丁寧に読み解くこと、そして研究対象をどのように位置づけるかを考えることです。対象が何であれ、そうした批評的営為と考察の積み重ねが文学研究の核を成していると思います。
――院生時代を振り返る


折井 それでは、皆さんに年代を遡っていただいて、ご自身の院生時代について教えていただけますか?
バックハウス これは当時のエピソードのひとつです。博士論文の口頭試問の前日、緊張していた私に、先輩がこう言ってくれました。「いまは、あなたにとってチャンスだよ。」
数年間、ほとんど一人で研究を続けてきた私に、「これからは1時間以上も専門家がじっくり話を聞いてくれるんだから、ずっと話したかったことを思いきり話せばいいんじゃない?」と声をかけてくれたのです。
いまでも、口頭試問を「怖い」と感じている院生がいれば、この話をして励ますようにしています。
佐久間 日本での修士課程のときは、「どうやって学費を捻出するか」ということが大きな問題で、アルバイトと学業の両立はすごく大変でした。教員免許を持っていたので、それがアルバイトでもかなり役に立ってよかったなと思います。
アメリカでの博士課程では、博士論文を書く資格を得るための試験で、220冊ほどの英米文学作品を読んで、そこから出題されるというのがありまして……。
古英語や中世英語で書かれた文学は読んだことがなかったのですごく大変でしたが、「物語って楽しいな」と思いました。いまは、もう体力がなくてできないと思います(笑)。
木村 私が通っていたアメリカの大学院は、日本の大学院と違ってコースワークが多くて、最初の2年間は週3回、それぞれ3時間の授業がありました。
当時は「興味がないことをやりたくない」と思っていたのですが、先ほどお話しした「広く浅い知識も身につける」ということにもつながる話で、いまになって思ってもみなかったところで役に立ったり、副指導で担当している学生さんと話しているときに自分とちがう研究内容でも当時習ったことを覚えていて研究の足掛かりにできたりするので、授業は多く取っていてよかったなと思います。
あと、バックハウス先生がエピソードをお話しされたので、僕も1つ紹介します。博士論文の口頭試問の前週くらいに、指導教官の先生に「何かアドバイスはありますか?」と聞いたら、「クッキーとコーヒーをみんなのために用意しておいてね」とだけ言われまして、内容についてのアドバイスは特にありませんでした(笑)。
一同 (笑)
木村 そこに至るまでにいろいろな試練があって、出版や試験も経験したうえでの最後の口頭試問は、ある意味で“お祭り”のようでもあるし、バックハウス先生がおっしゃられたようにチャンスでもあると思います。
研究以外の時間は、フリスビーを使って普通のゴルフのようにコースを回る“フリスビーゴルフ”を週4回ほどやっていました。
折井 研究は座りっぱなしになることが多いので、体を動かすのは大事ですね。では、松永先生の院生時代はいかがでしたか?
松永 私は基本的に日本で学んで1年間だけイギリスに行ったのですが、いま振り返ってみると、すごく恵まれた環境だったと思います。
一番印象に残っているのは、本当にボロボロになるまで読んだ本の書き手に会えたことです。指導教員の先生方がお膳立てしてくれて、ジュディス・バトラーやガヤトリ・スピヴァク、シェイマス・ヒーニー(ノーベル文学賞受賞者)などに会って、しかも直接お話ししてサインをいただけて、本当にうれしかったです。
ほかには、論文指導を指導教員にメールで依頼したら、数時間後には素早く的確な回答が戻ってきたり、応援のコメントをもらったりしたことがすごく大切な思い出になっています。
研究が進まなくて涙したことも何度かありますが、その度に研究仲間や先生方が励ましてくださったので、その方たちのことを思い出すと、いまでも懐かしくて温かい気持ちになります。
――研究以外で、普段楽しんでいることや好きなことは?
折井 研究以外で、普段楽しんでいることや興味があること、好きなことなどを教えてください。
バックハウス 料理をつくるのが好きです。いろいろなヨーロッパ料理が中心ですが、最近は日本の料理もたまに挑戦しています。
佐久間 サブスクで音楽を聴くことが多いですが、1ヵ月ほど前に「アナログレコードをコレクションしてみたいな」と思って、ジャズの、特に女性奏者のアナログレコードをちょっとずつ集めています。
ただ、レコードプレーヤーを持っていないので、いまのところはレコードは飾っているだけです。いいレコードプレーヤーのおすすめがあったら教えてほしいです。「どのレコードプレーヤーを買おうかな」ってリサーチするのも楽しいですね。
木村 子どもが生まれる前は四六時中研究のことを考えていましたが、最近は2週間に1回、家族で歌のレッスンを受けています。そのときはあまりほかのことを考えずにいられて、一番無心になれますね。
折井 ご家族で歌を? それは素敵ですね! どういう歌を練習するんですか?
木村 童謡や子どもも大人も楽しめるディズニー系の歌、アニメの主題歌などを練習しています。
それ以外は、料理やお笑い番組の視聴、散歩などが好きです。料理は、きちんとレシピを見てつくるのも楽しいんですが、冷蔵庫に偶然あったものを「どれとどれを組み合わせたらいいかな」と考えるほうが好きですね。
あと、最近はYouTubeでたまに見る程度ですが、中学生の頃は囲碁にすごく熱中していました。
一同 ほおお。
松永 私もお料理が好きで、季節折々のフルーツでジャムをよくつくります。私のイチジクジャムは絶品で、絶対においしいと思っています(笑)。
折井 いちごジャムなどを手づくりするというのは聞いたことがありますが、いちじくでもジャムをつくれるんですね。それは美味しそう! ジャムづくりはどうして始めたんですか?
松永 きっかけは、甘いものが好きで、もともとケーキとかタルトを焼くのが好きなんですが、大人になると焼いてもそんなにたくさん食べられないというか、食べてもいけないので(笑)、ジャムだったらいいかなと。
文化の授業なども担当していて料理などのカルチャーも調べることがあって、その流れで「これぞ」と思うレシピを見つけることもあります。先日はイギリスの有名な料理研究家のレシピでイチゴジャムをつくったら、これまた絶品でした。
折井 研究者って生来凝り性というか、 何か夢中になったりする傾向強いですよね。
一同 (うなずく)

――大学院進学や研究指導の受講に興味がある皆さんへのメッセージ
折井 では最後に、「大学院に行きたい」、もしくは「先生方の研究指導を受けたい」という方々へのメッセージをお願いします。
木村 僕が思っている“良い研究”というのは、社会的や学術的な意義だけではなく、「研究者個人のアイデンティティや経験から形成される独自の視点によって成り立つもの」だと考えています。
なので、皆さんの多言語話者としての経験や想いなどを、ぜひ聞かせてもらいたいなと思います。そこから一緒に考えていきたいですね。
佐久間 最近は、文学・文化研究が「あまり役に立たない」などの理由で軽視されている状況があると感じていて、進学したい学生さんたちも多くいる一方で、「文学・文化研究に意味があるのか」「将来、研究職に就けるのか」「学費をどうやって工面すればいいのか」といった不安についてのご相談も寄せられているのが現状です。
進学して勉強を極めていきたい方を応援したい気持ちが、私だけでなく、教育・総合科学学術院の先生方には強くあります。一歩を踏み出そうかどうか迷っている方は、先生方とオープンに事前相談できる環境なので、まずは気軽にお声がけいただければなと思います。
バックハウス 私がいつも思っているのが、「プロジェクトを始めるときは、何が出てくるかわからない状態が一番いい」ということです。本当に“白紙”のような感じで、「これからデータを集めて、結果はわからない」という研究が私は一番好きです。
すでにある理論の裏づけをつくるよりも、本当に何もわからないままで取り組むのがいいと考えていますから、そのようなことにチャレンジしたい方を大歓迎します。
松永 先ほどもお話ししたように、私の専門領域のフェミニズムもモダニズムも学際傾向がとても強いので、領域を横断する視点が求められている分野です。だからこそ、研究者同士が分野を超えて交流し、互いに支え合うことがとても大切だと考えています。
また、私自身、大学を卒業して3年間ほど働いてから大学院に戻ってきたので、研究の「道」は一つではなく、人それぞれに形があってよいとも思っています。
だから、さまざまな経験や経歴を持つ方が、分野を超えてお互いに支え合う研究仲間になってくれることを心から願っています。現実の厳しさや将来への不安があるのも自然なことです。でも、それでも「やってみたい」という気持ちがあるなら、その想いをぜひ大切にしてほしいと思います。
折井 シビアにいろいろなことを見極めつつ、でもやりたいことがあるなら思い切って飛び込んでおいでよ、ということですね。おっしゃる通りだと思います。
本専攻にはいろいろな分野の研究をしている院生さんや教員がいますが、特論の授業などを通じて院生さん同士の交流も盛んですし、教員同士の関係性も近いですよね。「指導教員と自分だけ」ではなく、学科や専攻自体がコミュニティになっていることはうちの強みだと私も思います。
松永 院生さんが指導教員以外の教員の誰にでも気兼ねなく相談できるような環境だと思いますし、これからもその状態を維持したいなと思います。
佐久間 そうですね。共同指導のような形で、いろいろな分野の先生や院生と交流いただけるようにと話し合っています。
折井 学際的という点でも、たとえば文学だったら「文学の先生の観点だけでなく、バックハウス先生の言語学的観点から見たらどうなのだろう」など、いろいろな広がりを持つことができる可能性を秘めていると私も感じています。本日はどうもありがとうございました。
一同 ありがとうございました。
